散る寸前のバラの投げ入れ
Nさんはバラが大好きである
特に自宅の庭に咲いたバラを玄関に投げ入れするのが
楽しみであるようだ
数年も前に商売をご子息に譲られてからは自宅の庭をあれこれ
いじられている
私が訪ねると庭のテ-ブルでお茶のもてなしだ
私が花を生けるのでNさんとの会話は常にバラや生け花の話になる
Nさんは時折椅子から立ち上がりバラの過ぎかかった前に案内する
春のバラは初々しくていかにも若者らしい美しさがあるが
それはそれでいいのだが 彼は秋のバラがすきだとのこと
見るまでもなくこのバラの下には落ちた花びらが何片も重なっている
サマ-レディ-強健でよく咲いてくれる
「この過ぎかかった花を生けたいのだが、、、」
私に向けられた質問 困ったものだと私は舌打ちした
こぼれそうな花を生けるのは無理だと私
どうしても生けるのであれば慎重に花が壊れないように
それだけだよ 私はそう言って突っぱねた
Nさんは鋏をもってきて私に渡した
コップに水を注いで それから慎重に一番開いたバラの茎に鋏をあてがった
プスゥ-と時間をかけて切り取った
花ビラは落ちない
「こちらに、、、」広い玄関にはガラスの器がある
私はもう一度水切りをした
根元のトゲを取り息を止めてゆっくりためた
バラは器によくなじんだ
二人は大きく息を吐いた
その日から数日後にNさんからの電話
「バラね、、、まだ大丈夫です、、、、」
二人ともくくっと笑った